■ はじまりは「牛に縞模様を描いたら虫が減った」という報告
2025年9月、日本の研究者がイグ・ノーベル賞（生物学賞）を受賞しました。
受賞理由は、**「牛に白黒の縞模様を描いたら、虫が寄りつきにくくなった」**という研究成果です。
京都大学と愛知県農業総合試験場の共同研究チームが行った実験では、黒毛和牛に白黒の縞模様を塗布したところ、次のような結果が得られました：
- ハエやアブなどの吸血性昆虫の付着数が50%以上減少
- 牛が虫を追い払う行動（足踏みや首振り）も減少
- 動物に害のない塗料で実施、安全性も考慮済み
この研究は科学的にもユニークで、実用性も兼ね備えているとして、世界的に注目されました。
■ でもこれ……人間にも応用できるのでは？
この研究を知ったとき、ふとある仮説が頭をよぎった方もいるかもしれません。
「じゃあ、シマウマ柄（あるいは“シマウシ柄”）の服を着たら、人間も虫に刺されにくくなるのでは？」
これはまだ誰も本格的に論じていない静かな仮説です。
SNSで大きなブームになっているわけでも、製品化の発表があったわけでもありません。
しかし、夏の夜の蚊対策や、キャンプ・屋外作業での虫刺されに悩む人は多い今、この発想には確かに一定の実用可能性が秘められているようにも見えます。
■ なぜ縞模様が虫除けに効くのか？そのメカニズム
研究チームの報告によれば、白と黒の強いコントラストを持つ縞模様は、以下のような視覚的な錯覚・混乱を引き起こすと考えられています。
- 虫が正確に着地できない（縞模様により距離感や位置を錯覚）
- 黒い部分と白い部分で温度の分布がずれたように見え、刺すポイントを見失う
- サシバエやアブなど、視覚を頼りに獲物に近づく昆虫に有効
牛の体に縞模様を塗っただけで、付着数や防御行動が明確に減ったというのは、こうした虫の“目”をだます効果が関係しているとされています。
■ 対象となった昆虫：サシバエ、アブ、ブユなど
研究では、以下の吸血性昆虫が主に観察されました。
- サシバエ：家畜に付着して血を吸い、ストレスや感染症を引き起こす
- アブ：鋭い口器で皮膚を傷つけて吸血。人間も刺されると腫れる
- ブユ（ブヨ）：日本でも山間部や川沿いで刺されることの多い昆虫
いずれも人間の生活にも関わる虫たちであり、牛で効果があったということは、人間にも応用できるかもしれないという期待が湧くのも自然な流れです。
■ シマウシ柄パジャマという仮説の自然さ
実際、以下のようなニーズや悩みを抱える人は少なくありません。
- 就寝中に蚊やブヨに刺される
- 市販の虫除けスプレーが肌に合わない・ニオイが苦手
- 赤ちゃんやペットがいる家庭では薬剤の使用を控えたい
- アウトドアや農作業時に動きやすい＆虫除けできる服が欲しい
そこで、“もし着るだけで虫除けができたら…”という発想が「縞模様のパジャマ」へとつながるのです。
■ でも、それって現実的？疑問もたくさんある
もちろん、この仮説はあくまで牛での結果から人間への応用を想像しただけのもの。
実際に人間で同様の効果が得られるかどうかは、現段階ではまったく未検証です。
疑問点もいくつかあります：
- 人間の皮膚温度や動きは、牛とはまったく異なる
- 夜間（暗い部屋）では、縞模様は虫に見えにくいかもしれない
- 牛と違い、人は上下の衣服で動きが分断されるため、模様の“全体性”が保てない
それでも、**「ありえない話ではない」**と感じさせるだけの説得力が、今回の研究にはあります。
■ どこまで実現できそうか？既存の「虫除け衣類」との違い
現在市販されている虫除けパジャマや衣類の多くは、以下のいずれかの方法で効果を狙っています。
- 忌避剤（ディートなど）を繊維に加工
- 蚊帳のような構造・通気性に優れた素材
- ハイネック・長袖・裾絞りで肌露出を減らす
これらは薬剤的または物理的アプローチであり、視覚的錯乱による「模様で避けさせる」という発想は未採用です。
つまり、「縞模様だけで虫が来ない服」というアイデアは、もし成立すれば**画期的な“第4の手法”**となる可能性を秘めています。
■ 現実にパジャマへ応用する際のハードル
ただし、実用化には明確な課題もあります。
① 模様の大きさ・コントラストの最適化
- 研究で使われたのは白黒の太めの縞模様（シマウマに近い）
- 一般的なパジャマのデザインで再現するには美観との兼ね合いが必要
→ 人間用に「おしゃれかつ効く縞模様」を再設計する必要がある
② 室内光環境での視認性
- 多くの蚊やブヨは夜行性
- 夜の室内では縞模様のコントラストが薄れる可能性
→ 光源との相性、色の反射率などを考慮する必要がある
③ 動きと視覚効果の関係性
- 牛は基本的に立って動かない時間が長い
- 人間は寝返りや移動など模様の位置や形が頻繁に変わる
→ 模様の「効果持続性」が不安定になる可能性あり
④ どの虫に効くのか未確定
- 研究対象はサシバエやアブなど大型の吸血性昆虫
- 家庭内で悩まされる「蚊」にも効果があるかは未知数
→ 虫ごとに反応する視覚パターンが異なる可能性あり
■ 仮に実用化されたらどうなる？想定される応用シーン
まだ静かな仮説段階とはいえ、もし「視覚的虫除け衣類」が成立すれば、次のような場面での活躍が期待されます。
| シーン | 想定される効果・利点 |
|---|---|
| 🌙 夏の就寝時 | 寝ている間の蚊の接近を減らす（スプレー不要） |
| 🏕 アウトドア・登山 | 肌を露出せず、自然に虫除けできる |
| 👶 子ども用パジャマ | 薬剤不使用で肌にも安心、デザインにも活かしやすい |
| 🧳 海外旅行先の熱帯地域 | 現地の虫除け対策として補完的に使える |
■ 研究者自身のコメントと今後の展望
今回の研究を主導した京都大学・兒嶋朋貴准教授は、報道インタビューで次のように語っています。
「身のまわりの現象を観察するところから出発し、実際に行動して試すことが重要です」
これは“人間への応用”も今後の行動次第で検証可能であることを示唆しているとも言えます。
現段階では「面白いアイデアだね」「本当に効くのかな？」と話題にする程度ですが、
企業や研究者が動けば、実験 → 試作品 → 市販化 という流れも決して荒唐無稽ではないでしょう。
■ 結論：まだ“静かな仮説”だが、未来の現実になるかもしれない
「シマウシ柄パジャマで虫除けができるか？」という問いは、
今のところ**証明も否定もされていない“途中の問い”**です。
ただし、
- 縞模様が動物の虫被害を減らすという研究結果は信頼性が高く
- 人間への応用も“検証すれば答えが出る”タイプの問題であり
- 虫除けの新たな選択肢として、構造的に魅力的なアイデアです
次に必要なのは、
「試してみる」研究者やメーカーの小さな一歩なのかもしれません。